はじめに
昨今のコロナ禍におけるオンラインでの様々な需要が高まる中、神楽文化も例外でなく、YouTubeへの参入も多く散見されるようになってきた。
多くの恩恵を受けると同時に、権利侵害やマナー違反などによるトラブルが目に見え始め、神楽団体やイベント・大会関係者の頭を悩ますことが増えてきた。
これまた様々なところからご意見・お叱りを受けそうな話題ではあるが、先日実施した意識調査の結果や様々な立場からの意見を交えながら、神楽文化のYouTube参入について話をしていこう。
※今回は、神楽団関係者以外の個人や企業,団体等がYouTube上に神楽の映像を一部または全部をアップロードすることを特筆する。
意識調査
先日、Instagramのストーリー機能を用いて、以下のような意識調査*1を行った。
「Q.神楽文化のYouTube参入に、賛成or反対?」
また、ご協力いただいた方には、可能な限り、二次調査として「賛成の立場には、参入によるメリット/反対の立場には、参入によるデメリット」について聞き取り調査をした。
それでは結果を見ていこう。

賛成の立場の意見(メリット) |
・他県の方々に知ってもらえるいい機会になるのではないか? ・コロナ禍ということもあるが、神楽を広めるためにもすべてに規制をかけるべきではない。 ・YouTubeにあるから見に行かないという人はいないのではないか? ・YouTubeをきっかけに生で見に行きたいと思う人は少なくないはず。 ・神楽団体が責任をもって、主体的に発信し、収益を得るのは大賛成。 ・海外への発信が可能である。 |
反対の立場の意見(デメリット) |
・神楽を生で見るときの感動が少なくなるのではないか? ・撮影時のルール違反やマナー違反が散見される。 ・DVDの価値が大きく下がる恐れ。 ・YouTubeで満足して客足が遠のくのではないか? ・お客あっての神楽なのに…。 ・直接的な神楽団の応援に繋がらないのではないか。 ・イベント関係者や施設管理者、神楽団体が施設管理権等を行使して撮影/アップロードを禁止にしないのが不思議である。 ・わざわざ見に来てくれた方や努力をされる神楽団体の方に失礼。 ・発生した収益(広告収入等)が神楽団体に入らないのはおかしい。 ・神楽団員それぞれのプライバシーを守り切れない。 ・肖像権やプライバシーなどの権利侵害が最も問題。(観客の顔がはっきり映り込んでいる事案も。) ・動画の撮影やアップロードに抵抗感を持ち、嫌がっている神楽団体も既にある。 |
調査結果を見て、想定したよりも反対派が少ないなと印象をまず初めに持った。
しかしながら、二次調査をしていくと、賛成派にも「ルール違反等については論外である」や、反対派でも「ルール整備がきちんとされればいいんじゃないか」などと、具体的な意見や対策案を聞いていくと、一概に賛成/反対が決まる議論ではないことを再認識した。
さらなる議論や具体的な対応策を考えるためにも、私なりにメリットとデメリットをまとめていこうと思う。
参入のメリット
①神楽文化を初めて知るきっかけになる可能性
YouTubeやその他SNSへの参入におけるメリットとして大きく取り上げられるのが「新たな人に知ってもらえる」ということだ。
インターネット利用率は約90%、SNS利用率は約70%という高い推移*2を記録している今の日本社会において、SNSを通して伝統的な地域の文化を発信していくことは今後ますます求められるだろう。
ただ注視したいのは、実際に神楽の映像を丸々アップロードすることが神楽文化への新規参入を本当に促せているのか?ということである。
個人的な感覚では、ある程度の事業(文化庁等の公的機関を巻き込んだものやクラウドファンディングなどによる社会性・話題性を持つオンライン事業等)であれば、それなりに新規参入者を見込めるが、個人がアップロードしたものに関しては、既存の神楽ファンが視聴するのが大半であり、実際に初めて知るきっかけとしての効果が明確にあるのかと言ったら不明瞭であると考える。ただこれについては、事実としてはどうなのか判断しきれないため、ぜひとも投稿者サイドとしての認識や細かなデータを開示していただきたいものだ。
②世界への発信につながる
もはや言うまでもないが、現在のYouTubeというものは全世界に多大な影響を与える。
最高のエンターテインメントでもあり、全世界を繋ぎ、新たなコミュニティを創設するプラットフォームであり、それに加え、経済活動促す新たなビジネスの場であったりと、現代社会においては非常に影響力があり、切っても切り離せないYouTubeである。
そのため神楽文化の参入は「海外への発信につながる」可能性はあると考えられる。
ただ、これについても実際のところどうなのかと疑問に思うことが多々ある。海外への発信といえでも、そう簡単にできるものではない*3。
いかにして言語の違う人々に楽しんでもらうのか、それどころかどうやって「神楽(KAGURA)」を検索にヒットさせるのか。
もちろん、中には世界への発信に成功している事案があることは知っている。
ただその事案については、世界への発信を目標とする一つの事業である。
口上の英訳や海外向けのオンライン配信や同時通訳、世界に向けた広告や海外メディアとの提携など、様々な努力や工夫、出資があるから結果が出ているだけであって、この事案があるから多数派を占める他の動画も世界への発信につながっているんだ、という認識は大きな誤りであろう。
参入のデメリット
①神楽団体や神楽団員の権利侵害の恐れ
既に権利侵害は発生しており、そろそろ目をつぶりきれない段階に入ってきている。
特に「肖像権」や「プライバシー権*4」の侵害は深刻なものである。
何よりも言いたいのが、「無断・無許可アップロード」である。これについてはもう呆れるしかない。はっきり言って、こればかりはただの“犯罪”である。私が推察する限り、訴訟とまで大ごとになるとは現時点では考えられないが、だからといってしていいものなんかではない。
実際、私の所属する団体も被害を受けており、1件は投稿者に私の方から個別に連絡をさせていただき、必ず許可を取ったうえでアップロードを行うというお約束をした。
にもかかわらず、先日新たな無断アップロードをされ、その中では、奏楽に焦点を当てるということで、私を含め団員の顔が大々的に公開され、もうたまったもんじゃない…。(汗)他にも、まだ対応しきれていない事案もあり、神楽団体としても、個人としても泣き寝入りをするしかない現実もあるのである。
何度も繰り返すが、はっきりしないメリットとは違い、この「権利侵害」は既に発生している。早急な対応が必要になってくるだろう。
②ルール・マナー違反の助長になる恐れ
この話題では、アップロード後についての問題が取り上げられがちではあるが、撮影の際も様々なトラブルが発生している。
過去にも、動画撮影をしている人のマナー違反が原因でトラブルになったり、実際に観覧の邪魔をされたという話や「神楽をあげときゃ再生回数が伸びるし、収益も上がる」という神楽に対するリスペクトが1ミリも感じられない呆れた発言をする投稿者がいたという話もちらほら聞いたこともあり、本当に迷惑なものだと感じた。
もちろん、マナーやルールに則って撮影を楽しんでいる方もいらっしゃるため、すべてを批判するつもりはないが、YouTube参入がマナー・ルール違反の助長になってしまう恐れは大いにあるだろう。
③文化的価値・ブランド力の低下の恐れ
今後、神楽文化を保全・振興するには「観光資源化」や「ブランド化」が必要になってくる。もっと分かりやすく言うのならば、神楽文化に「金銭」という付加価値を生み出すことが急務である。
例えば、観光キャンペーンや各種イベント、定期公演等での“入場料”である。
ご存じの方も多いと思うが、現在YouTube上にアップロードされている動画の中には、“有料”のイベント等の神楽が、いとも簡単に“無料”で投稿されているのも多くある。
もちろん、“生”で神楽を見ることに金銭的付加価値を生み出しているという捉え方も理解できないこともないが、まったくもって、神楽団体にとっても、イベント運営側にとっても不利益なことには違いないだろう。
これがいずれ文化的価値やブランド力の低下・低迷につながる可能性は言うまでもない。
まとめ
さてここまで読んで、気づいた人も多いのではないだろうか。
「さてはこいつ、参入に反対派だな?」と。笑
その通りである。
個人的には、「明確なルールや神楽団体にきちんと利益が回る仕組みがない限りは、YouTube参入は、神楽団体が主体または委託しない限りするべきではない」と現段階では思っている。
今回は、神楽団関係者や神楽ファンなど様々な立場の方々からの意見を調査した。
考えられるメリットが実際に発生している可能性は大いに認められる。
一方で、様々なデメリットが既に発生していることも分かったのではないか?
今後は、まず現在発生しているデメリットを解決する対応策を練ると同時に、ではどのようにしてプロモーション効果のある発信をしていくのか、きちんと議論していく必要があると考える。
ただ、これもそう簡単ではない。神楽団体が各々規制をかけることは現実問題難しいうえに、まずもって議論が生まれることさえ稀である。各地域の神楽連絡協議会を通した神楽団体間の協議や、各種大会・イベント主催者関係者同士の議論が必要になり、早急に結論を出すのが求められるのではないだろうか。
意外と軽視されがちな話題だからこそ、そのあいまいさに甘え、マナーを守れないデリカシーのない人によって、勝手に撮影され勝手にアップロードされ、勝手に収益を得ている。このままにしていて本当にいいのか、ぜひ考え、議論してほしい。
最後に警告させてほしい。
無断・無許可アップロードをしている方々は、即刻やめるように。
関連情報
(注釈)
*1:調査方法には、事象に対する結果に対し、一定の制限と偏りがある可能性が大いにあるが、1つの指標としては問題なく参考になるであろうと考察する。
*2:「総務省|令和2年版 情報通信白書|インターネットの利用状況」(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/html/nd252120.html)
*3:LIFE PEPPER「YouTube動画を海外の方に観てもらうためにこれだけは押さえておこう!」
(https://lifepepper.co.jp/abroad-youtube-view/)
*4:「【プライバシー権のまとめ|判例の基準|定義の発展】」
(https://www.mc-law.jp/kigyohomu/16077/)
(とびらじお)
#1「神楽文化のYouTube参入どう思う?」(https://youtu.be/gz7D3cnoUTY)
#8「神楽文化のYouTube参入どう思う?」(https://youtu.be/ycJBkw0aZdo)
#30「YouTubeアップロードに物申す!」(https://youtu.be/AP–jRPLMH0)