吉高神楽部部長下田響己さんに聞いた!!2年越しの神楽甲子園への想い。

はじめに

今年の夏、待ちに待った神楽甲子園が2年越しに開催された。昨年は、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、中止となってしまったこの大会。いまだ終息を見せないコロナ禍において、様々な制約がある中、並大抵ならぬ熱意と愛情を持ち、奮起する1人の青年がいた。今回は、その1人の青年に話を伺った。


神楽甲子園とは

「高校生の神楽甲子園」は平成23年から、これからの時代を担う高校生が日本各地で大切に継承される伝統芸能の保全・伝承、また文化交流を目的に開催し始め、今年で第10回を迎えた。大会の運営についても、様々な行政機関や企業・団体等の支援を得ながら、参加高校の生徒が積極的に運営している。

今年は、新型コロナウイルス感染症対策として、神楽ドーム収容人数の半分以下の700名を上限とした入場制限や大声での歓声が禁止され、平年よりも少し物寂しいと思われた。ところが、2年越しの高校生の熱気あふれる舞台、そして会場中に響き渡る大きな拍手で包まれた会場は物凄いものだったようだ。


「滝夜叉姫」を演舞する吉田高校神楽部

吉高神楽部部長下田響己さんに聞いた!!

——神楽との出会いについて教えてください。

下田:僕は元々、安芸高田市に住んでいて神楽と触れ合う機会がとても多かったんです。特に通っていた保育園では競演大会などの神楽のDVDがよく流れていて、その頃から神楽を見てかっこいいなと思い、興味を持っていました。

——その経験が神楽団入団や神楽部入部につながったのですか?

下田:実は一時期神楽から離れたこともありました。しかし、中学2年の頃、再び興味が沸き、神楽をやりたいと思いました。そんなこともあって中学校卒業を機に八千代神楽団へ入団しました。神楽部に入部するのは、以前より友人と話をしていて入部しました。

——神楽部について詳しく教えてください。

下田:吉田高校の神楽部は約18年前に創立されたまだまだ若い部です。創立当初より1から作られたもので、師と仰ぐ神楽団が具体的にはありません。地域内の様々な神楽団で活躍される関係者の方々の厚い支援や助言を得て、うまく吸収しながら、台本や舞、奏楽の型が創られ、継承されてきました。

——自分たちで創る神楽ということですね?

下田:はい、その通りです。神楽団の中ではなかなか経験できない神楽部だからこその特権ですね。もし自由なあまり、あまりに違うことをしすぎてしまっても、先輩方に助言を頂けるので、安心して自分たちの神楽ができます。

——ということは、神楽部に入団する生徒は経験者が多いですか?

下田:いえ、実はそんなこともないんです。もしかしたら僕たちの世代だけかもしれませんが、部員の大半が神楽未経験の素人なんです。毎年約7人の新入部員を迎え、ありがたいことにも部員不足に苦しむことも少なく、活発に活動をさせていただいています。私のほかにもすでに神楽団員として活躍する方もいれば、神楽部をきっかけに卒業後神楽団に入団する方も多くいます。

下田氏が描いた「恵比須」のポスタ―

——なるほど。今回下田さんは出場だけでなく、運営やポスター作製にも携わられていましたよね?

下田:そうですね。平年であれば、運営に必要な様々な分野を出場高校がそれぞれ担当をするのですが、今回はコロナ禍で安芸高田市以外の高校を運営に回すことが厳しかったため,吉田高校が引き受けることになりました。ポスターについても引き受けることになり、私が担当しました。

——ということは、非常に忙しかったんじゃないですか?

下田:そうなんです…。ポスターは、GWを返上して作成していました。もちろん神楽甲子園に向けての練習もあったので、帰った後ほぼ徹夜で描いていました。出来としては全然でしたが、やり直しもあっての完成で、とても思い入れのある絵になりました。ただ、もう絵は描きたくありません(笑)

——それは大変でしたね(笑)。今回、「恵比須」を描いたのにはどんな想いがあったのですか?

下田:特に、どのような絵を描いてほしいという要望はありませんでした。ですので、今回は“第10回”という記念の大会でもあったので、お祝いとしても縁起の良い恵比須を描こうと決めました。

——昨年の甲子園中止についてどう思われていましたか?

下田:大変残念でした。神楽甲子園のみならずそのほかの大会やイベントも軒並み中止となってしまい、私たちは何のために練習をしているのだろうと思いました。目標となるものを一気に失ってしまったことで、練習にも身が入らず、来なくなってしまう部員もいました。部員の中で、自主公演をしてみようという声も上がりましたが、感染症対策の観点も含め、高校生だけで開催するのは現実的に難しく、出来ませんでした。とはいえ、1つ上の先輩方は、神楽甲子園での出場もなくなり、危うく公演が全く無しでの引退という形になりそうだったので、オンライン配信で「大江山」をして引退ということになりました。

滝夜叉姫(五月姫)を熱演する下田氏

——そうでしたか…。今年は無事開催され、本当に良かったです。さて、今回は演目を「滝夜叉姫」に選ばれましたが何か理由はありますか?

下田:実は、1つ上の先輩方が昨年出場できていればするはずだったのが「滝夜叉姫」でした。現役の部員の中でいろいろ意見を出し合い、中には、人数の多い演目をやりたいという声もありましたが、最終的には、吉田高校らしい良い舞をするため、そして引退された先輩方の叶えられなかった想いも考慮して、決断しました。それと実は今回「日藝選奨」も狙っていたこともあり、過去の演目などを分析し、この演目なら取れるのではないかと考えたというのもあります。本当に無事、日藝選奨が取れて良かったです。

——本当に考え抜かれての演目だったんですね。他にどれくらい演目があるんですか?

下田:そうですね、代によってやる演目が変わるのではっきりとはしていませんが、トータル10演目くらいで、僕たちの代では4演目ほどしていました。

——ちなみに聞くと旧舞はどんなでしょうか?(笑)

下田:そうですね(笑)。旧舞というくくりで言えば、「塵倫」と「鍾馗」が神楽部のベースになっています。先輩やOBの方々からは、「1つの世代で必ず1つの旧舞は保持をしておけ」とよく言われており、僕らの代は、1年生の頃に「鍾馗」をしました。神楽部は大体1演目を1か月くらいでパパッとやってしまいますが、登場人物が少なくミスが分かりやすい「鍾馗」は時間をかけて練習しました。入部してまずは旧舞をできるようにして、基礎をしっかり固めてから新舞をやっていくのが僕たちのやり方です。

——話は少し戻りますが、神楽甲子園に出場する意義とは何でしょうか?

下田:神楽甲子園は3年間の集大成の場です。神楽部は特徴的で,他の同世代の人たちと競ったり、交流する機会が本当に少ないんです。同世代と唯一競い合える場で,楽しんでやっていますね。そこで同世代との新たな関わりを作って,お互いを刺激しあい、自分たちも頑張ろうと思えることに大きな意義があるのではないでしょうか。

——神楽甲子園後の周りからの反響は何かありましたか?

下田:反響は凄かったです。まるでM-1グランプリを優勝したようなものでした(笑)。Instagramのフォロワーも増え、DMも十数件頂きました。また、学校内での反響も大きくて、比較的神楽部は校内では有名な部活でもあって、他の部活が全国大会で賞を取ったかのように祝福してもらいました。他にはテレビの取材も組んでもらったりと、神楽甲子園の力は凄いと思いましたね。各地からの様々な神楽や新舞・旧舞の壁もない中で、また昨今派手さが無いと言われることもある中で、安芸高田の神楽、我々の神楽が認めてもらえたということがうれしかったですね。

舞台後の挨拶

——これから下田さんはどんな形で神楽と付き合っていきますか?

下田:そうですね、今のところは安芸高田にずっといるつもりなので、神楽団員として神楽を続けていこうと思います。具体的な目標はありませんが,八千代神楽団はまだあまり知られていない神楽団で,歴史も浅いですが,安芸高田市の方々に認めてもらえるように,安定した舞ができるように刺激をもらいながら頑張ろうと思います。安芸高田市といえば横田(神楽団),原田(神楽団)といわれるところに並べられるように,ますは神楽団員として頑張るしかありませんね。

——後輩の皆さんに伝えたいことはありますか?

下田:とにかく後輩の子たちには、なんにでも“挑戦”していってほしいです。コロナ禍もあって自主公演など僕たちはできませんでしたが、そんな中でも新入生の前で披露をするだとか、数年前の代の先輩が作ってくださった年納めの公演などを続けるなどしながら、様々に挑戦していってほしいと思います。

——最後に皆さんに伝えたいメッセージをよろしくお願いします。

下田:2年間我慢してきた人たちが,こうやって見る側で楽しんでもらって,やる側では頑張ってきたので,なんでしょう…。言葉が出てこないです…。何って言えばいいでしょう…。とにかく、「我慢すればいいことはある!」これからも神楽甲子園を貴重な大会としていければいいと思います。

——本日はお忙しい中、ありがとうございました!

下田:こちらこそありがとうございました!この世代でまた頑張っていきましょう!


取材を終えて

今回は、下田響己さんに様々な話を聞いた。奇遇にも全くの同世代で、話をしていて大いに共感する部分も多くあり、何よりも神楽甲子園が開催され本当に良かったとつくづく思った。神楽部のみならず、神楽団もコロナ禍で非常に苦しい状況で、公演どころか練習もできない昨今、神楽関係者にも神楽ファンにも大きな勇気と希望を与えたこの神楽甲子園。後継者の確保・育成という面でも非常に意味のあるこの大会が、この先も絶えることなく開催されることを心から願う。数年後、下田さんが神楽団員として大活躍をされる傍ら、神楽部OBや大会運営の支えとしてこの大会を盛り上げられている姿を見るのが楽しみで仕方がない。これからの下田さんの活躍に目が離せない!!

終わりになりましたが、神楽甲子園の開催に携わられた大会関係者の方々、そして熱い中熱気あふれる舞台を見せてくれた各高校の生徒の皆さん、そして、今回取材をさせていただいた下田さんには心より御礼申し上げます。


関連情報

(取材協力)
下田 響己 様

(写真提供)
山本 蓮 様

(参考資料)
・「広報 あきたかた 平成29年9月号 市長コラム vol.107」
 (http://kouhou-akitakata-9gatsugou-28-29_rekishi-kikou-shichou-koramu.pdf
・あきたかたNAVI「イベント情報 第10回 高校生の神楽甲子園 ひろしま安芸高田」 
 (https://akitakata-kankou.jp/event/14399/
・第10回 高校生の神楽甲子園 ひろしま安芸高田 1日目 配信リンク
 (https://youtu.be/QujyWIQoKdM
・第10回 高校生の神楽甲子園 ひろしま安芸高田 2日目 配信リンク
 (https://youtu.be/GsbshqHF-5U
・#26 とびらじお 神楽甲子園の意義
 (https://youtu.be/4GmuyZaSlpE

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