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「鍾馗」奉納にかけた想いとは

はじめに

先日、中国新聞にこんな記事が掲載された。

中国新聞 7月1日(木)掲載

まず、話の概略はこうだ。

安芸高田市高宮町川根地区の2社の神社において、梶矢神楽団に対し、その地区の氏子有志や宮司が、コロナ退散を祈願して「鍾馗」奉納の依頼。約三週間の練習を経て、地区の代表者約20名の前で、飲食を一切行わないことや換気を徹底するなどの新型コロナウイルス感染症対策を徹底したうえで、無事に「鍾馗」を奉納したという。

知っている人も多いと思うが、梶矢神楽団の「鍾馗」は昭和29年に県の無形民俗文化財指定を受けている。実は、近年この演目を見る機会は非常に少なかったため、超レアな奉納神楽だったともいえるかもしれない。

ちなみに、鍾馗の代表的な採物である「茅の輪」であるが、一般的には熱加工で円形にした竹に和紙を巻き、細く切って紙がヒラヒラとなっているものが多いが、梶矢神楽団は、茅を編み、紙垂をつけた茅の輪を用いているのが大きな特徴だ。
まさに夏越祭などで見られる茅の輪くぐりの神事の茅の輪そのものである。


「鍾馗」奉納の意味

私は、この記事を見て、非常に感銘を受けた。

やはり、「奉納」の神楽こそ、本来の姿であり、「鍾馗」に込められてきた様々な願いや想いが最大限発揮される形態であろう。

新型コロナウイルス感染症で社会が大きく変わり、様々な制限が加えられ、不安な日々が続く昨今に奉納するというのは、非常に意味あることだと感じた。

私の地元で起こったことでもなく、新聞で見ただけではあったが、氏子たちが依頼をし、それに神楽団が応え、終息を願い奉納という一連の流れが、私にとっては非常に心に訴えかけられる部分があった。

実は、梶矢神楽団のN団長とは以前より交流があり、掲載されたその日に早速ご連絡させていただいた。

ほんの7分弱の交流であったが、掲載許可とともに神楽への想いもお聞かせいただいたので少し紹介しよう。

掲載記事には、書かれていなかったが、今回川根地区の2社の神社で「疫病退散」の幟を2対ずつ作成したという。それも相まって「鍾馗」奉納の話が出てきて、今回のような動きになったようだ。
ある意味、当たり前の流れであるが、なかなか当たり前の実現が難しい今の時代に、このような動きが生まれたことは、評価されるべきであり、私は敬意を表したい。

「イベント神楽はそれはそれでいい。ただオンリーになったらだめ。こういう(奉納)神楽もちゃんとやらんといけん。」

梶矢神楽団 N団長 様

本当にこの言葉に尽きると感じた。

昨今、観光資源化で、各種イベントや大会で、神楽が上演されることが多くなった。
一昔前は、秋の風物詩であり、年に1度の祭りでしか見られなかったものが、今では年間を通して様々なところで見られるなど考えもしなかったことだろう。

一方で、少子高齢化や過疎化の影響を大きく受け、地域に密着した氏神への奉納の神楽は少しずつ薄れてしまった。
夜通し行われることも少なくなり、規模も縮小したり、氏子自体の数も減った。
中には、地元の祭りすらままならない地域もあるようだ。
なんと寂しいことだろうか。


おわりに

個人的には、秋祭りの神楽に勝るものはないと感じている。
全国的に見ても、祭りでここまで芸能性の高い神楽が執り行われていることも非常に珍しく、「神楽のない祭りは祭りじゃない」という人がいるほど、私たちの生活の中に溶け込み、必要とされてきている奉納の神楽を衰退させるのは勿体ない。

コロナ禍で、奉納神楽の再開がいまだ目途が立っていない地域が多くある。
いつになれば、祭りを存分に楽しめる日が来るのだろうか。

この「鍾馗」奉納の願いが一日でも早くかなうことを祈るばかりである。

今月末から来月にかけて、各地の神社で夏越祭(大祓)が執り行われ、「茅の輪くぐり」の神事が行われているところも多いのではないか。
ぜひ、感染症対策もしながら、参加してみてはどうだろうか?

コロナ退散を願い奉納した梶矢神楽団の皆様、そして記事作成・掲載していただいた中国新聞社記者の方に心より御礼申し上げ、疫病退散を祈りながら、この記事を締めくくろう。


関連情報

【鍾馗】
演目紹介⇒https://kyumainotobira.com/2021/05/22/syouki/
【掲載記事】
中国新聞社 2021.6.30掲載記事
https://www.chugoku-np.co.jp/local/news/article.php?comment_id=768758&comment_sub_id=0&category_id=112
【梶矢神楽団】
FB⇒https://www.facebook.com/kajiyakaguradan/
【その他】
安芸高田市HP(梶矢神楽団について)
https://www.akitakata.jp/ja/shisei/section/syoukou/kagura/n147/
安芸高田市歴史民俗博物館
https://www.akitakata.jp/ja/hakubutsukan/assets/akitakata/
YouTube【公式】神楽門前湯治村
「【梶矢神楽団編】安芸高田神楽リレーメッセージ動画」
https://www.youtube.com/watch?v=n6UV-kAL9HA

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